かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

即席めん及び成人式について(随筆)

びっくりするほどに美味しくないカップラーメンだった。食べれば食べるほど美味しくなくて、これでは輪ゴムを調理したほうが、まだ食べるに値するんじゃないか。冗談で言っているんじゃない、私は本気でそう思った。……まあ、輪ゴムを調理したほうが食べるに値する、これは言い過ぎだとしても、しかし、今まで食べたなかで間違いなく、一番美味しくないカップラーメンだった。だって、思わず私は、普段はそんなことしないのだけれど、いっぺんゴミ箱に捨てたぺらぺらの「ふた」、カップラーメンのふたをふたたび(ふたをふたたび、ですってよ(笑))取り出して、その名前を確認するほど、二度と買ったりしないように、その名称を頭に刻み込もうとして、要するに、それくらい美味しくないカップラーメンだった。
私はその、驚くほどに美味しくないカップラーメンの残り汁と、缶チューハイを交互に飲みつつ、あおるように流し込む缶チューハイが、いつもその味なんて気にしたことはないけれど、これもまた、目をみはるほどに味気なくて、それに、どれほど飲んでも酔えなかった。私は、はからずも、カップラーメン同様に、いつも飲んでいる(いつも同じ銘柄のそれを選んでいるにも関わらず、)そのラベルを見返して、しかし、こちらはいつも通りの缶チューハイだった。


そういえば、今日は、成人式らしいですね。


……嘘をつきました。いや、今日が成人式、成人の日であることにかわりはないのですが、「そういえば」という、まるでいま思い出したかのような口振りが、嘘なのです。ほんとうは今日、いや、昨日から、大学の期末レポートを書きつつも、ああそういえば、成人式だなァ、私は出ないけれど。何故かって、住んでいた処からとおく離れた大学に進学してしまったわけだし、と言うより、自分で選んでそうしたわけだし、わざわざ成人式のためだけに帰省する費用がもったいないし、それに、それに、

……ああ、成人式は一生に一度しか無いらしいですね。

……私は、ほんとうは、心の奥底では、成人式に出たかった。だけれど、成人式にあえて出るほどの思い出も、友人も、私には、無い。


夕飯がカップラーメンひとつきりだと少ないから、キッチンの棚をまさぐっていると、ふたたびあの、もう絶対に忘れやしないよ、あの、びっくりするほどに美味しくないカップラーメンが出てきました。この際、この空腹、もとい空虚を満たせるならばどうでも良いような気持ちになって、お湯を注ぎ、3分待って、先ほど使った箸を使いまわし、麺を啜ると、ああ、ほんとうに、びっくりするほどに、まずい!