かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

2023-01-01から1年間の記事一覧

悪趣味な遊び(掌篇)

エッちゃんとサチがいつものように通りすがりの中年おやじを馬鹿にして遊んでいると、とうとう一人の逆鱗に触れた。そいつだって最初はほかの気弱な中年連中と同様に、私たちみたいな生意気な女子高生になす術もなく、怯えたように歩き去ってゆくばかりだっ…

盲腸で入院した話(随筆)

つくづく自分がなるとは思いもしなかったものにおれはずっとなり続けている。こんなにも惨めな25歳になっちまうとは思っていなかったし、公僕として働くことになるとも思っていなかった。いわんやこのあいだのように盲腸で入院することなんて想像だにしてい…

新入職員は なきごえを おぼえた!(随筆)

労働者になって早や六ヶ月目である。私が労働者としてやっていけていることを私自身、未だに信じられずにいる。スーツを着て家を出るたび、何か悪い冗談のような気分で街を歩いているが、どうやらこれは冗談でも何でもないらしい。まったく勘弁してくれよと…

北海道を一週間旅した話(紀行文)

カネが無くて呻いていた。 旅行へ出発する半月ほど前、一月末の無職の私は、どこへ行くことも何をすることもできずにいた。現金の持ち合わせがまるで無かったのである。四月からの労働者生活が始まるまえのラスト・モラトリアムたる貴重な期間、値千金たる時…

海とユータナジー(小説)

誰しも、心穏やかに過ごした生涯の一時期をひっそりと胸中に抱いているものだ。それはたとえば、ひたすらに落書きをして過ごした夕方の留守番のひとときであったり、或いは風邪を引いて学校を休んだ昼下りの家の透き通るような静けさの思い出であるかもしれ…