かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

独り言を拾う電話(掌編)

なんらかの、信念と見紛うような信条や、あるいは政治的思想だとか、わたしにはそういったものが無くて、そういう強い思想を持つ人を、と言うよりも、その思想を平気な顔で、もとい、むしろ自慢げにひけらかすような人が苦手で、ではお前には意志がないのか…

醜悪のむきだし(随筆)

むかしは、私は私自身が幸せになる空想をすることが頻繁だった。だけれど、私は生活に向き合うすべを、生活のなかで幸せを創り出すすべを知らないから、虚しいそれらの空想は、逃避行や心中、そういうことばかり、私は考えていた。 たとえば私は夏の或る日、…

宵の口(随筆)

友人の家でウィスキーを飲んで、下世話な話やしゃちほこばった文学の話をした日の帰り道、なんだか私はふわふわとして、それというのも、高いウィスキーや、久方ぶりの友人とのしっかりとしたコミュニケーション、そういったものがぜんぶ良いように作用して…

21st century addicted man(随筆)

そうなる迄に半年もかからなかった。死んだ魚の目でもて、取り憑かれたかのように、あわれ、ほぼ四六時中思考を、行動を囚われる。こないだ久方振りに実家に帰って、小学校の卒業アルバムを見返すと、未だ眼に光を灯して、自身の生活に見棄てられる直前の(、…

死化粧(掌編)

大学で、月曜四限のこの時間、宗教学をあたしはとっているのだけれど、いつも教室の隅っこのほう、おんなじ席にひとりきりで座っている、ある男の子が、あたしには気になってしかたがないのだ。……誤解のないように言っておくと、これは貴女がたが或いは想像…

感情と不条理(掌編)

毎授業ごと、まずはじめに私のことを指名してくる先生が居たんです。日直が、起立、礼、着席、っていうふうに号令をかけて、すると先生は、じゃあ教科書の73ページを開いてくれ、この3行目から、山梨、お前読んでみろ、っていうふうに、いつも変わりばえし…

即席めん及び成人式について(随筆)

びっくりするほどに美味しくないカップラーメンだった。食べれば食べるほど美味しくなくて、これでは輪ゴムを調理したほうが、まだ食べるに値するんじゃないか。冗談で言っているんじゃない、私は本気でそう思った。……まあ、輪ゴムを調理したほうが食べるに…

ただぼんやりとした不安(随筆)

人生は旅にたとえられることが多い。だが、私はこの喩えを嫌悪する。こんな凡庸な、牛乳を拭いたぼろ雑巾みたいな臭いを放っている比喩を、もう充分に分別がついている筈の年齢の人間が使っているのをみると、たといそれが電車で隣に座っていた見ず知らずの…

ゆきどまりの町(短編)

どこまでも格子状の道路が張り巡らされている国だった。道路と道路の幅はぴったり50メートルで、そんな道路が南北に並行に、無数に引かれており、それらと直角に、東西にも無数の道路が、ぴったり50メートルおきに引かれていた。要するに、延々と続く方眼用…

ポストモダン的孤独(掌編)

「いいかい君、これは、ぼくがぼくの経験から発見したことなのだけれど、幸福な人間を鈍い人間であると仮定するならば、不幸な人間は不幸によって鈍くなってしまった人間であり、いつ迄も感性の鋭い人間は、かれ自身、彼女自身で不幸であると思い込みつつも…