かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

2021-01-01から1年間の記事一覧

煙草を喫う(掌編)

『幼女と煙草』という小説を読んでひさびさに煙草を吸いたくなった。実家ではさておき、一人暮らしのこのアパートで私の喫煙を止める者は居ない。なので吸うことにした。 戸棚に隠すようにしてしまってある灰皿とライターと、煙草を一本取り出して、キッチン…

四国を一週間旅した話(紀行文)

むかしの旅の話をしようと思う。 なぜむかしの旅の話をするのか?それは私の未来が真っ暗であるから、せめて明るい思い出にあやかろうとしてのことである。モラトリアムの終焉をすぐそこに控えた私はもう、ふたたび気楽に旅を出来る身分にはなり得ないだろう…

就活で書いた作文です(随筆)

ままなりませんね、就活。ほんとうにもう、如何ともしがたい。とくに面接が駄目、まったく駄目、一次面接をこれまでに一回も突破できていない。わたくしの就活は一次面接すら突破できずに終わるんではないでしょうか。そうしたら一体どうするんでしょうね。…

日々の澱(随筆)

風光明媚に惹かれて入った大学に所属してはや五年目になるが未だにその構内をのんびり散策したことすら無かった。大学構内の散歩はかねてより私の望むところのものではあったが、まァそんなことはいつでも出来るサ、なんて懈怠がうそぶいて、いつまでも引き…

下馬評的エヴァ評(評論?)

アメリカで映画『アバター』が公開された際、映画内で描写される光景のあまりの美しさと、自身の日常生活の平凡さとの間のギャップに耐えられず、観賞後抑うつ状態に落ち入る人が相次いだという。「抑うつ状態」だなんて少々大げさであるような気もするが、…

物書きの先生と私(掌編)

原稿用紙の前で懐手をしてウンウン唸っていた先生は、おもむろに唸るのをやめると、散歩に行ってきます、と言って立ち上がり、外に出る準備をしはじめた。以前いちど先生の散歩を許したとき、そのまましばらく雲隠れを決め込まれたことがあって、そのときは…

電気ちょうちょと自動カナブン(掌編)

帰りの会の、『先生のおはなし』の時間になると、先生はプリントを配りながら、ニコニコして言いはじめた。 「来月の図工の時間から、『機械じかけの生きものたち』の単元をはじめますよ。いま回しているプリントに書かれている、どちらの生きものをつくるか…

自分語り(随筆)

自分語りなんてものはまったく、語る側からしてみれば楽しいのかもしれないが、聴く方からしてみればこれほどつまらないものはなくて、とくにそれを語っているのが聞き手にとって大して興味のない人間だったならば尚更のこと、くわえてその語りぶりが冗長極…

日常最終日(掌編)

殺人事件のニュースのあとは地球滅亡のニュースだった。どうやら今夜の十二時ちょうどに、一瞬で地球は終わるらしい。 そのニュースがテレビから流れたときに僕ら家族の三人は、テーブル囲んで朝ごはんを食べていた。誰も言葉を発さなかった。箸と食器だけが…

或る晩(掌編)

マンションの一戸のあるじの部屋に、来客を告げるチャイムが鳴った。こんな夜中にいったい誰がと思いつつ玄関のドアを開けると、すぐそこに男が土下座していた。彼は言った。 「大変申し訳ないです」 あるじは目を閉じ、ふたたび目をひらいた。やはりそこに…

置き文(掌編)

夢中になって橋の欄干にぐるぐるとロープを固く結びつけていると、いつの間にか後ろにランドセル背負った女の子が立っていて、おれのことをじっと見つめていた。おれはそれにしばらく気がつかなくて、自分の作業をひととおり仕上げてふぅと息をつき、何とな…