かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

雑記(2020/11/24)

まだほんの小さい頃のある一日のある朝の、朝と言ってもまだ陽が地平線の下にあるそんな時間に目が覚めて、と言うのも物音がしたからそのために目を覚ましたわけなのだけど、物音の方に目を向けるとその物音は私の父が釣具を携えて今にも家から出ていこうと…

童話まがい(掌編)

沈黙は金、などと言いましたが、そんな美意識はとうの昔に腐り落ちて無くなってしまったのです。 とても煩(うるさ)い街にひとりの男の子がおりました。巨(おお)きな目をしたふわふわの栗毛の可愛らしい少年で、吃(ども)りを持っていましたから喋るのは苦手で…

雑記

スロットで五千円負けた。何もかもお了いだ。うなだれて家に帰った。 日常的にスロットを打つ人間には判るだろうが、スロットを打つ際に五千円は端金に過ぎない。五千円程度の負けで済んだならば寧ろスキップして帰路についても良いくらいだ。だが私はこの世…

人生賛歌(掌編)

血のような汗を流しながら永遠の坂道を登っていた。背中を絶えず灼かれているのは、赤黒く膨張した太陽を(いつの間にか)背負わされていたためだ。夕暮れは気忙しくヒグラシと共に喚き、傍らを傍若無人な鉄の車が頻繁に下っていった。 耳許で、熱く湿った微風…

えんどれす⭐︎ティータイム(掌編)

一杯のお茶と全世界を交換してもいいと誰かが言ったが、むろん、いいだろう、但しそれは全世界であって自分の肉体とじゃないのだ。…… (安部公房『壁』-第二部 バベルの塔の狸) * 気がつくと彼はふたたび、……いや、みたび、よたび、……さて、ほんとうのところ…

今際の追想(随筆)

火を通した肉塊の、その総てがほとんど黒ずみぼろぼろになってしまった、屑肉の、しかし、その芯の芯、そこにはまだ、ほんの少し、辛うじて、まだ生きていたころのようなピンク色の肉が、焼けずに残っている、そんな、……いや、うまく言えない。 つまり、私に…

醤油を借りに(掌編)

何のことはない。 つまり、醤油を切らしてしまったのだ。 この醤油を造っていたところはしばらく前に潰れてしまったし、すこし遠出すれば或いはどこかで見つかるかも知れないけど、……いいや、前々から予見していたことじゃあないか。買い溜めしといた醤油が…