カネが無くて呻いていた。 旅行へ出発する半月ほど前、一月末の無職の私は、どこへ行くことも何をすることもできずにいた。現金の持ち合わせがまるで無かったのである。四月からの労働者生活が始まるまえのラスト・モラトリアムたる貴重な期間、値千金たる時…
誰しも、心穏やかに過ごした生涯の一時期をひっそりと胸中に抱いているものだ。それはたとえば、ひたすらに落書きをして過ごした夕方の留守番のひとときであったり、或いは風邪を引いて学校を休んだ昼下りの家の透き通るような静けさの思い出であるかもしれ…
引用をストックしました
引用するにはまずログインしてください
引用をストックできませんでした。再度お試しください
限定公開記事のため引用できません。