かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

人生賛歌(掌編)

血のような汗を流しながら永遠の坂道を登っていた。背中を絶えず灼かれているのは、赤黒く膨張した太陽を(いつの間にか)背負わされていたためだ。夕暮れは気忙しくヒグラシと共に喚き、傍らを傍若無人な鉄の車が頻繁に下っていった。

耳許で、熱く湿った微風に乗せて胸糞の悪い日輪が囁く、「自転車はどうした、日陰で休み給えよ!」自転車はとうに失っていた。時計も持たず自転車に跨り、せいぜい隣の駅までの移動すら大冒険と呼ぶような児童では無くなっていた。自転車もプラスチックバットもみな、決して辿り着けない原初の納屋で、とおく忘れさられていった。……日陰もとうに閉じられていた。永遠の坂道を登りながら、シャッターを締め切った日陰は侵入を拒む。あるいはひとしく開かれていたそれも、すばしこいネズミのような連中がすばやく入り込み、寿司詰めの、奴らはしかしニヤニヤと、意地悪く愉快そうにこちらを見ている。既に入る余地を残した日陰は無い。

もはや永遠の坂道を、汗を垂らしながら登ってゆくほか無かった。すべて棄ててやろうとして傍らの鉄の車の高速にぶつかってしまおうとするが、そのたびに、望まず背負った日輪が囁く、「お前はそれを許されているのか?」するともはや為す術もなく、足取りを元の場所に戻し、泣きそうになりながら、汗を、涙を垂らしながら、熱に充満した永遠の坂道を、登ってゆくほかないのだ。とおく忘れ去られた原初の納屋、シャッターを下ろした日陰、ニヤニヤと眺めてくるネズミども、そういうものに耐えながら、あえて大丈夫であるように振る舞いながら、くたばり果てるまで、おまえはこの永遠の坂道を登ってゆくほかないのだ。