かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

ぬっぺふほふの星(掌編)

なにやらぬらぬらとしたピンク色の肉塊が、肉塊、だがそれは生きているらしく、ゆっくりと蠢いたり、かと思うと自らの肉のはざまに小さな穴を開け、そこから奇妙な音を出す。歌っているのか或いはただ鳴いているのか、我々には知りようもないが、ずいぶんと長々音を出した肉塊は突然黙り込み、周囲を見渡すような所作を見せる。

二十メートル四方の穴ぐらのなかの、ひとつの辺の端にその肉塊は立っている。仮にそれをアルファと名付ける。アルファは巨大な横長の石板を背に、右に左に蠢いたり、肉のはざまの小さな穴から音を出したり、時おり石板に何か落書きする。すると、アルファの対面に落ちている(意図的に存在している?)数十の肉塊も一斉にそれぞれの手元にある石板に何やら落書きをする。アルファが喋り、落書きをし、数十の肉塊もそれを真似る。

 

別の場所へ視点を移そう。

 

今度は数メートル四方の穴ぐらの中、ふたつきりの肉塊が寄り添って存在する。これらふたつの肉塊をそれぞれベータ、ガンマと名付ける。ベータが肉塊のなかから一本の触手をガンマに差し伸べると、ガンマはそれをみずからの肉塊に取り込む。それを機にベータとガンマは入り乱れ、くんずほぐれつ、しまいにはおおきな一塊となる。(肉塊は概して醜いが、このようにふたつの肉塊が一塊になって蠢く瞬間ほどに醜い姿は存在しない。)

しばらくすると、ぬらぬらとした一塊の肉塊はふたたびベータとガンマのふたつに分かれ、しかし、ベータとガンマの間には新たな小さい肉塊の一つが落ちている。(肉塊はこのようにして増殖する?)

 

他にも、有機物を小孔から摂取する肉塊、身に纏うぼろきれのいくつかを前にして逡巡する肉塊など、多数の所作が見られたが、ここであえてひとつひとつ記すことはしない。

 

最後に、これら肉塊の個体数について。

推定七十億強の肉塊がその惑星には蠢いている。