かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

anarchy in the JK(掌編)

あの瞬間のあの接点を中心にして、同心円状に、ひと、都市、時間、もっと詳しく言うならば、おれの両手、が握りしめる包丁、が、女子高生の胸に深く突き刺さる、おれと女子高生の、唯一の、接点、を中心として、あの瞬間、世界は、広がっていた。包丁が太陽を反射して煌めき、規範に身体を包まれただけの赤ん坊のような少女、の、胸を、突き刺す、おれが持っている、この、包丁。世界のすべてはここを、少女と包丁の接面を中心に、同心円状に広がり、停止する。時間も、すべてはこの瞬間の、この一点のためだけに流れて来、そうして、去ってゆく。

 

きのうおれはシャツとジーンズを着て、包丁をもち、泥まみれの靴を履き髭も剃らず、街に出た。すれ違う人すれ違う人、大袈裟におれを避けたり、背中を向けて逃げ出してゆく。

おれは駅に行った。駅には人がたくさんいて、おれも雑踏に紛れた。

すこし先に、女子高生がふたり立っていた。白いセーラー服が目に染みる、夏だった。

おれは、世界の中心を知っていた。おれが、あの無垢なセーラー服の白さを無機質に鈍くひかるこの包丁で刺し貫くと、そこが、世界の中心になる。

おれは右側の女子高生に走り寄り、勢いそのまま、包丁を刺した。駅の騒めきがとまり、瞬間、そう、ここが、世界の中心!

無垢なセーラー服と包丁の無機質が交わると、どす黒い血がどくどくと流れて止まらず、もう、あとは蛇足だ。セーラー服には血の染みが広がり、隣の煩い女はきっと、おれが刺した女子高生の、友人であろうか。ああ煩わしい、警察が来た。ここでもう一度、誰かを刺しても良いかもしれないが、それはもはや、世界の中心ではない、それは、おれには、全くの、無価値だ。

 

 

「供述書を書くにあたり、君は正直に答えなければならない、誓えるかい?」

「おれはなにも誓えやしないよ」

「…じゃあ、聴いてゆくが、どうして君は、女子高生を刺し殺した?」

「そこが世界の中心だったからだよ。…あとは、そうさね、セーラー服の無垢と、型抜き包丁の無機質が衝突したら、どうなってしまうのか、おれは、無垢と無機質の衝突を、世界の中心を、目にしたかった」

「それだけのために、女子高生を殺した」

「ええ、何なら死ぬのはおれでも良かったが、そうすると世界の中心になるだけなってあとは蛇足に関わらずにすめたろうから、そっちのほうが良かったかもしれないよ。しかし、そうすると、無機質と無垢の衝突が起きないか、ううん、どうしたものか…」

 

ケ・セラ・セラ!

価値観を不幸にも超越していた彼は、大変人道的な方法で処刑された。囚人は、十三段の階段を、英語の歌を口ずさみながら登っていった。