かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

寓話(掌編)

どこまでも大きなグラウンドがあった。この世の果てまで続いていると思われるほどに広いようで、現に、「このグラウンドの端がどこにあるのか、その端を見つけてこよう」と言って駆け出した彼は、未だに戻ってこない。

その大きなグラウンドのいろいろな場所で、君らは自由に遊んでいた。相撲をとるも良し、地面に絵を描くも良し、或いはただ寝ているだけの面々も居た。とにかく、自由闊達に遊んで居た。

ある日、そんなグラウンドの一角に、塀がつくられた。四隅を高い壁で囲った、グラウンドのなかの五メートル四方は、まるで君らの遊びを排除するかのようだった。

しかし君らは違った。そんな壁などものともせず、壁に落書きをする者や、壁を乗り越えるスポーツを作る者、或いは壁の中に安臥して日陰を楽しむ者など、むしろ君らの遊びの幅は、グラウンドに現れた壁を機に、一挙に広がった。


別の日、別の場所で、またべつの障害がつくられた。棒とひもで五メートル四方のグランドを区切った簡潔なもので、三歳児でも飛び越えられそうな仕切りだったが、その棒の外の四隅には黒服がそれぞれ一人ずつ立っていた。

ある男がその仕切りを飛び越えようとした。すると、黒服がそれを止め、男を遠くに連れて行き、そこで男を殴り殺してしまった。それを見た周囲の人々は、以後その仕切りのなかに入ることはなく、またべつの場所で、(その付近がお気に入りだった人もいるのだけれど、その人らも同様に、べつの場所で)遊び始めた。


黒服たちの周囲にもはや人影はなく、しかし以前と変わらずに、彼らは仕切りのなかの五メートル四方を守っていた。ある黒服が、仕切りのなかへちらりと目を向けると、弱々しい植物の芽が生えてきているのが目に入り、黒服は微笑んだ。しかし、その仕切りのなかには誰ひとり干渉することが出来ないので、水も良い土もなく、その芽はそのまま枯れていった。

黒服は相変わらず、周囲に誰もいないにもかかわらず、最初と同様に、五メートル四方を囲み、目を光らせている。