かえる作文帖

小説(掌編・短編)や随筆などを書いています。読んでくれると嬉しいです。

この街の深夜が好きだという話(随筆)

訳あって五年ほど学生として札幌の街に暮らしている。『訳あって』なんてわざわざ断るまでもないが、要するに、私は五年間、大学生としてこの街に暮らしている。出来が悪いから四年で大学を卒業できなかった。そんな留年無能大学生の繰り言として聞いてほしい。もとい、そんな無能大学生の繰り言こそを皆さんに聴いてほしい。友達もぜんぜん居なくなっちまった大学生の繰り言だ。よろしいか?よろしいね?

……それでね?その無能留年大学生が、どうしようもないその愚図が、今晩二十時、一人きりの酒盛りで飲み足りない酒を買い足しに、アパートを出てコンビニへ向かったわけだ。部屋着のスウェットのズボンをジーンズに履き替えて、上着として分厚いジャンパーを羽織ってコンビニへ向かった。(私は頻繁にこういった外出を行うのだよ。つまり、酒を買い足しに行くような外出を。)それで、近所のセイコーマートにひとり、ひとりきり、酒を買い足しに行くわけだが、こんな早い時間帯だと、コンビニやその付近に大学生の集団がそれなりに居るわけだ。

これは非常によろしくない。よろしくない、っていうのはつまり、『私にとって』よろしくない、っていう意味なんだ。何てったって私は大学生の集団が大嫌いで、私だって一応は未だ大学生の身分なわけだが、大学生の集団ほどにわずらわしくって厭わしいものはないと思うんだ。同意してくれるかい?同意してくれなくたって私はこの調子で続けるのだがね。しかし事実として大学生の集団は厭わしいと思うんだ。少なくともおれは。皆さんは大学生の集団が好きか?おれは大嫌いだよ。

それで、今晩は妙に大学生の集団がこの街に多いわけだ。雪山が歩道の路肩に高く立ち並ぶこんな街に、つまり雪が繰り返し降り積もったようなこの街には静けさこそがふさわしいのだが、大学生の集団はうるさいね、大学生の集団は道を塞いで騒ぐし、すれ違うにしても気を遣う、そんな大学生の集団がたくさん、二十時のこの街にはいくつもあって、みんな居なくなっちまえばいいのだが、要するに、大学生の集団がほとんど数少なくなる深夜、それこそ、深夜の三時ごろがこの街でいちばんうつくしい時間帯であると、おれは、そう思うわけだ。

或いは皆さんはおれの言うことに同意してくれないかもしれない。賑やかなほうが素晴らしいだろう、ってそんな安直な(?)ことをいうかもしれない。だが皆さん、いや、お前ら!

お前らは誰もいない深夜の淋しい交差点で信号機のひかりが(寂滅のように)赤から青へと切り替わる際のかすかな音を聴いたことがあるか。路肩の雪山越しに見える赤信号のあらわな眩しさを知っているか。コンビニの灯りとともにどこまでも続いていくような青信号のつめたいやさしさを知っているか。街灯と信号機とコンビニの灯りばかりが道を照らす深夜の淋しい雪の路上の街並みの、すれ違う人の決してありやしない路上を、友人とふたりながながと帰ったことがあるか。滑る雪道を真夜中に酔っ払いながら歩いていると、瞬間!、薄暗い雪道の路面を見ながら歩いていた視界が唐突に真っ暗な空に暗い雲が浮いている夜空に切り替わって、アアおれは背中をついて綺麗に転んだんだと自覚して、なんだか嬉しいような、そんな心地を知っているか。ふと立ち止まればどこまでもしずかな雪の夜中を知っているか。立ち止まれば静寂が肌を刺す冷たさとともにおれはあまりに孤独なあの、淋しさを、おまえは知っているか。コンビニに立ち寄ってコンビニチキンを買って食べればその油と肉の温かい、その幸せにも似た心地良さを知っているか。

 

とおくから除雪機の音がする。この街の深夜には除雪機の音が響く。睡眠薬を飲んでおれは、除雪機の音を聴きながら眠る。